プロジェクト 

社会医工学研究センターでは、本学の令和4年度中期目標に掲げられた「価値創造による次世代社会システム構築のための地球規模の社会課題の解決と、研究成果としての科学的理論や基礎的知見の現実社会での実践に向けたイノベーションの創出」に取り組みます。この一環として本学独自の科学的知見を統合しつつ、学内外との学際的な医工連携により社会課題の解決に注力します。この社会課題のうち2つの医工学テーマである再生医療および高齢者医療に関する研究を学際横断的に進めます。このため、生体機能性素材による新規培養法および医療材料の開発、ヒト疾患の診断・治療を目指した多細胞システムの構成的理解と制御、および希少疾患の病態解明を基盤としたヒト遺伝的ダイバーシティの包括的理解に関する生体医工学研究と、介護負担軽減と介護の質維持のバウンダリーオブジェクトデザイン、さらに大規模言語モデルとスマートセンサーシステムの統合による高齢者のメンタルヘルスケアの実現に関する社会医工学研究を遂行し、本学独自の医工学研究を創成します。これらに関連して、本学における医工学関連研究者による学内外・国内外の共同研究と頭脳循環を加速し、医学系研究機関を交えた研究交流を目指したワークショップ等により研究を質的に発展させます。

 研究プロジェクトの紹介 

事業I  生体機能性素材による新規培養法および医療材料の開発​ (小谷英治、徐准中、岡久陽子) 

この事業では、本学の伝統に根ざしたカイコの研究を発展させ、遺伝子組換え技術で改変した新規繭素材を活用しつつ幹細胞の未分化維持培養や、生体内での創傷治癒など生体機能の制御に関わる増殖因子タンパク質供給型の培養素材および生体素材を開します 。利用企業や研究者への希少機能付与・改変カイコおよび生体素材および特性細胞の提供とコラボレーションにより、新たな幹細胞培養素材提供の社会実装を目指す。生物改変による有用素材開発の基礎原理についての公表と、医工連携ワークショップでの情報共有や啓蒙に役立てます。 

事業II  介護負担軽減と介護の質維持のバウンダリーオブジェクトデザイン​ (阪田弘一、山下馨、Werner Carl Frederic)

要介護高齢者増加、介護職員の不足や働き方は大きな社会問題であり、対策としての介護施設への各種介助支援設備導入(センシング、自動ケア機器等)のための支援増強の動きがある。ただし介助支援設備導入については、ユーザビリティの低さによる介護負担増加、更には介護の質を低下させるのではというダブルバインドを抱える介護者の存在も無視できません。また、こうした支援が届かない対象として、在宅生活で重度の障害を持つ人のケアに従事する家族やヘルパーの存在も無視できない。 本研究は施設から家庭までを視野に入れ、介護負担軽減と介護の質維持のバランスに着目し、フィールドリサーチや当事者各位とのワークショップ(WS)などを通し、その最適化に寄与する介助支援設備を構想します。そして、そのためのセンシング機器や自動ケア機器の改良の方向性についての知見を得ることを目的とします。  

事業III  ヒト疾患の診断・治療を目指した多細胞システムの構成的理解と制御​ (野村真、片岡孝夫、和久友則、Elia Marin)

急速な社会変容、人口構造の変化によって、我が国の医療と福祉は大きな変革を求められている。ヒトの健康寿命促進のためには、長期ライフステージにわたる階層的な生命現象の理解が必要です。本プロジェクトでは哺乳類を対象とした細胞内代謝や組織間相互作用によるホメオスタシスに焦点を当て、組織工学のための生体材料開発、生体高分子の計測技術の開発、こうした基盤技術を用いた細胞、個体レベルでの分子機能の構成的な理解と制御を行います。本年度は特に担当者間の連携を深めるとともに、他事業の担当者との共同研究やセミナーの開催による共同研究を推進します。発生遺伝学・細胞生物学・分子化学・材料化学分野の緊密な連携により、多臓器疾患の診断・治療に向けた病態解明が本プロジェクトの目標です。 

事業IV 大規模言語モデルとスマートセンサーシステムの統合による高齢者のメンタルヘルスケアの実現(​桑原教彰、Panote Siriaraya)

R7年度に得た「AI対話支援」「姿勢認識を用いた身体機能支援」「AI生成画像による記憶想起支援」の成果を統合し、スマートテキスタイルと大規模言語モデル(LLM)を連携させた包括的メンタルヘルスケア基盤の構築を目指します。生理・睡眠・活動量などの多様な計測データを長期的に取得し、LLMが個々の状態変化を解析してストレスや孤独感を早期検出する個別化モデルを開発します。また、生活史や写真を活用した多モーダル対話介入、運動支援、回想的コミュニケーション支援を統合し、高齢者に適した自動介入エコシステムを実装します。さらに国内外の精神医療・福祉工学・繊維科学の研究者と連携し、国際ワークショップの開催、IF誌への投稿、フィールド評価、外部資金獲得を推進し、工学と福祉を融合した国際的研究拠点の形成を進めます。 

先導型プロジェクト:希少疾患の病態解明を基盤としたヒト遺伝的ダイバーシティの包括的理解​ (野村真)  

医療・創薬技術の飛躍的な進歩によって、我が国は先進国でもトップクラスの平均寿命を維持しています。こうした人口構造の特殊化と密接に関連した疾患であるがん、生活習慣病、精神疾患に関しては、病態解明、治療、予防に向けた国家的プロジェクトが進行しています。一方、患者数が非常に少なく病態の理解や有効な治療法が確立していない疾患(希少疾患)に関しては、製薬企業側の経営戦略と合致しないため、早期診断、治療のための創薬や医療機器開発が大幅に遅れています。我が国における希少疾患の総患者数は約1000万人存在しており、こうした患者とその家族の人生を左右する疾患の病態解明と創薬開発の推進において、アカデミア研究の果たす役割と責任は大きいと考えます。こうした研究背景と成果を踏まえて、本研究課題では希少疾患の原因となるヒトゲノム微細変異に注目し、ゲノムの多様性が発生過程にどのような影響を与えるのかについて、ゲノム医学に卓越した技術を有する学外研究者、海外研究者との連携研究を進めます。さらに、ヒトの生物学的多様性の科学的エビデンスが市民社会にどのような影響をもたらすのかについて、ソーシャルデザインを専門とする本学教員との連携により議論を進めていきます。メディカルバイオサイエンスの実証研究による希少疾患の病態理解、早期診断・治療への道筋を確立すること、さらにこうした研究成果を礎としてヒト多様性についての真の理解を目指すことが本プロジェクトの目的です。 

 

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